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東京地方裁判所 平成11年(ワ)21128号 判決

原告 寒川佳江

右訴訟代理人弁護士 小河原泉

被告 飯田耕一郎

右訴訟代理人弁護士 平松敏郎

主文

一  被告は、原告に対し、金九〇万三九一五円及びこれに対する平成一一年一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一九六万〇五六八円及びこれに対する平成一一年一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 原告は、平成一一年一月一六日午後三時ころ、福島県耶麻郡北塩原村檜原地内グランデコスキーリゾートスキー場サフランコース中間地点付近を、同コースの上方よりゆっくりと中廻りを繰り返しながら、スキーで滑降していた。本件事故のあったサフランコースは、その中間地点は中級コースとして比較的なだらかな斜面であり、見通しのよい地点であった。

(二) 原告の滑降中、原告の左後方よりスノーボードで滑降してきた被告がバランスを崩して転倒し、原告のスキー板の後部にボードが接触したため、原告はバランスを崩し転倒し負傷した。

2  被告の過失

スキー場において、上方から滑降する者は、前方を注視して下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないしは衝突を回避することができるように、速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負うものというべきところ、被告は、被告の右斜前方を原告がスキーでゆっくり滑降していることが認識できたのにもかかわらず、バランスを崩して転倒滑走し、原告のスキー板後部に接触し、原告を転倒負傷させた過失がある。

3  原告の受傷

転倒の結果原告は左上腕骨大結節部骨折の傷害を受け、同日事故現場近くの太田熱海病院で治療を受け、帰京して東京共済病院で平成一一年一月一八日より同年四月三〇日まで通院加療を受けた。

4  原告の損害

(一)治療費 四万一五八一円

前記太田熱海病院と東京共済病院での治療費の自己負担分である。

(二)通院交通費 一万五一二〇円

東京共済病院への通院交通費である。

(三)休業損害 九七万三八六七円

原告は本件事故当時満五七歳の主婦であったが、少なくとも本件事故による傷害の治療のために通院した期間である一〇四日間は家事に従事できず、平成一〇年度賃金センサスの女子労働者の企業規模計・学歴計平均賃金をもとに右休業日数の休業損害を算出した金額である。

(四)慰藉料 七五万円

原告は本件事故による受傷のため、平成一一年一月一八日より同年四月三〇日まで通院を余儀なくされ、多大な精神的苦痛を蒙っており、右苦痛を慰藉するための慰藉料としては七五万円をもって相当とする。

(五)弁護士費用 一八万円

5  よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき金一九六万〇五六八円及びこれに対する不法行為日である平成一一年一月一六日より支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)の事実は認める。同1(二)の事実中、被告のボードが原告のスキー板の後部に接触したことは認める。その余は否認する。

2  請求原因2の事実は否認する。

3  請求原因3の事実中、原告が事故当日事故現場近くの太田熱海病院で治療を受けたことは認める。原告が左上腕骨大結節部骨折の傷害を受け東京共済病院で平成一一年一月一八日より同年四月三〇日まで通院加療を受けたことは知らない。その余は否認する。

4  請求原因4(一)ないし(三)の事実は知らない。同4(四)の事実中、原告が本件事故により受傷したという点は否認し、その余は知らない。同4(五)の事実は知らない。

理由

一  事故の発生と過失

1  事故の発生日時が平成一一年一月一六日午後三時ころであること、事故の発生場所が福島県耶麻郡北塩原村檜原地内グランデコスキーリゾートスキー場サフランコース中間地点付近であること、その中間地点は中級コースとして比較的なだらかな斜面であり見通しのよい地点であったこと、原告のスキー板の後部にボードが接触したことは、当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いのない事実並びに成立に争いのない甲第一号証ないし甲第三号証、甲第一〇号証及び甲第一一号証、乙第一号証及び乙第二号証、被告主張の写真であることに争いのない乙第五号証、成立に争いのない乙第六号証、証人福山恵子及び同駄賀一哲の各証言、原告寒川佳江及び被告飯田耕一郎の各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一)  平成一一年一月一六日午後三時ころ、福島県耶麻郡北塩原村檜原地内グランデコスキーリゾートスキー場において、スキーで滑降していた原告とスノーボードで滑降していた被告が接触し、原告が転倒して負傷する事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(二)  本件事故当時、原告は五七歳の主婦であり、スキー歴一〇年程度でスキー技術は中級であった。被告は当時三五歳の会社員であり、スキー歴は一〇年以上あり技術も中級程度であるものの、スノーボードは事故発生日が初めての滑走であった。被告は、当日の午前中に友人駄賀一哲から転び方や止まり方、基本的な滑り方を教わりそれらを身につけた後、午後から一人でスノーボードを滑走させていた。

(三)  原告は同スキー場内サフランコース中間地点付近を上方からゆっくりと中廻りターンで滑降し、一方被告はスノーボードを不安定な姿勢でかつ速度の制御が困難な状態で原告から見て左斜め上方から原告の方向へ滑降し、転倒するに至った。その際、スノーボードのエッジ部分を原告のスキー板の後部に乗り上げる形で接触した。そのため滑走中にバランスを崩した原告はその後体勢を整えようとしたがかなわず、左肩を下にして前方に投げ出され、本件事故が発生した。

(四)  本件事故現場はかなり幅の広いゲレンデであり傾斜もなだらかで、事故当時見通しは良かった。

3(一)  被告は、<1>本件事故は、被告が原告の上方からスノーボードを滑走させて下方にいた原告に後ろから衝突したものではなく、被告はむしろ原告の下方にいたところ、上方からスキーで滑走してきた原告と出会い頭に衝突したものであり、かつ、被告は、バランスを崩したため転倒して原告に衝突した訳ではなく、原告との衝突を避けるため意図的に転倒して制動しようとしたものである、<2>原告は、被告と衝突後直ちに左側に転倒したものではなく、被告と衝突後約一五メートルそのまま滑走した後、木が倒れるようにして右側に転倒したものである、<3>被告は、本件事故当日、初めてスノーボードを行い、制動措置として自ら転倒する方法を習得した反面、山側から谷側に向けて直進することはできなかったと主張する。そして、被告本人尋問の結果及び被告作成の陳述書二通(乙一、六)には、<1>及び<2>に沿う供述及び供述記載部分があり、成立に争いのない乙第二号証、証人駄賀一哲の証言によれば<3>の事実が認められる。

(二)  しかしながら、<1>及び<2>の点については、被告本人の供述以外にはこれを裏付けるに足りる証拠はなく、また、右被告本人の供述は、本件事故直後、原告及び被告が同席して作成された甲第二号証の記載内容と合致しないこと、<2>の点については、内容自体不自然であるのみならず、前記認定の原告の負傷部位と合致しないこと、<3>の点については、本件事故当時被告がスノーボードの滑走及び停止につき制御可能な状態にあったことを前提とした主張であることがそれぞれ認められ、以上の事実及び前記2掲記の証拠に照らせば、(一)の被告の供述は採用することができず、(一)<3>の事実もこれをもって2の認定を覆すに足りず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  右の事実によれば、被告は原告の上方からスノーボードを滑走させてきたのであるが、スキー場において上方から滑降する者は、前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負うものというべきところ、右事実によれば、本件事故現場はかなり幅の広いゲレンデであり傾斜もなだらかで、事故当時見通しは良かったのであるから、被告は、原告との接触を避けるための措置を採り得る時間的余裕をもって、下方を滑降している被告を発見することができ、かつ被告はスノーボードの初心者とはいえ少なくともスノーボードの基本的動作である止まり方や転び方を身につけていたのであるから、早めにいずれかの方法を採って原告のスキー板に接触することを回避することができたというべきである。

そうすると、被告には前記注意義務を怠った過失があり、原告が本件事故により被った損害を賠償する責任がある。

二  損害

1  原告の受傷

前掲甲第一〇号証及び甲第一一号証、成立に争いのない甲第四号証、甲第五号証の一ないし三、甲第六号証の一ないし一〇、一二ないし一四、一六ないし一九、二一ないし二六、二七ないし四〇、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故の結果左上腕骨大結節部骨折の傷害を受け、同日事故現場近くの太田熱海病院で治療を受け、帰京して東京共済病院で平成一一年一月一八日より同年四月三〇日まで(実通院日数三六日)通院加療を受けたことが認められる。

2  原告の損害

(一)  治療費 四万〇六二一円

前掲甲第四号証、甲第五号証の一ないし三、甲第六号証の一ないし一〇、一二ないし一四、一六ないし一九、二一ないし二六、二七ないし四〇、成立に争いがない甲第七号証の一ないし四、甲第八号証によれば、原告が本件事故により負った通院治療費は四万〇六二一円と認められる。原告は、帯状疱疹による皮膚科の治療費九六〇円も本件事故による損害と主張するが、本件事故と右疱疹との間の因果関係を認めるに足りる証拠はない。

(二)  通院交通費 一万五一二〇円

前掲甲第六号証の一ないし一〇、一二ないし一四、一六ないし一九、二一ないし二六、二七ないし四〇によれば右は、東京共済病院への通院交通費であると認められる。

(三)  休業損害 一六万八一七四円

前記認定の事実によれば、原告は主婦として家事に従事していたが、少なくとも本件事故による傷害の治療のために通院した実日数三六日間は前記病院に通院して治療を受け、その間通院に要した時間は家事に従事できなかったことが認められ、前掲甲第四号証によれば、原告の住所及び前記病院はいずれも東京都目黒区に所在することが認められるので、右通院に要した時間はいずれもほぼ半日程度であると認められ、以上によれば、通院実日数について五〇パーセントの休業損害を認めるのが相当と判断する。

そして、賃金センサス平成一〇年第一巻第一表の女子労働者・企業規模計・学歴計・年齢別(五五歳から五九歳)の平均年収額三四一万〇二〇〇円を基礎にこれを計算すると、一六万八一七四円(一円未満切り捨て)となる。

(四)  慰藉料 六〇万円

本件事故の態様、傷害の内容、程度、その後の通院治療の経過などの諸事情を考慮すると、慰藉料は六〇万円が相当である。

(五)  弁護士費用 八万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、八万円と認めるのが相当である。

(六)  合計

以上によれば、原告の本件事故による損害額は、九〇万三九一五円となる。

三  以上によれば、原告の本件請求は、不法行為による損害賠償請求権に基づき、九〇万三九一五円及びこれに対する不法行為の日である平成一一年一月一六日以降支払済みに至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第六四条本文、第六一条を、仮執行の宣言につき同法第二五九条一項をそれぞれ適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 草野真人)

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